『ヒルガードの心理学(第16版)』 評論問題自己流解答

ヒルガードの心理学 第16版

ヒルガードの心理学 第16版

↑に出てくる評論問題の答えは公開されてない(答えが一つに定まるようなものではないので当然)ので,自分流の解答を垂れ流してみる.適宜更新.

注意
  • 筆者は心理学の専門家ではありません.
  • この解答を信頼することによって生じるいかなる不利益に関しても筆者は責任を負いません.

第1章

評論問題(p.9)

1.
univ-journal.jp
大学の研究結果をもとにしているのでまあ信用できるのではないでしょうか.

2.
論文化された結果をもとにしているから.事実であることを知るには心理学的知見を持った上で原著論文を読む必要がある.
元論文:Punishment diminishes the benefits of network reciprocity in social dilemma experiments | Proceedings of the National Academy of Sciences
ちなみに元論文の最初を少し読むだけで,この研究のキモは「懲罰条件での協力回数が予想よりも低く,既存の理論における懲罰の重要性に関して再考が必要である」という点にあることがわかる.が,上記ニュース記事の方ではその点が抜け落ちている.やはり元論文を読むのは大事.

評論問題(p.15)

1.
生得説:人は生まれながらにして世界に対する知識を持っている
経験説≒連合主義心理学:人は生得的な知識・観念を持っておらず,経験の中でそれを身につける
構成主義:人間の精神構造はより小さな要素に分解することができる
機能主義:人間は環境に対して適応する中で心的機能を獲得する(参考:Functionalism).
行動主義:人間は条件付けによって行動を学習する.
ゲシュタルト心理学:人間の知覚経験は知覚刺激の全体的構造によって変化する
精神分析:人間の行動・思考は無意識によって影響を受ける

2.
・相いれないもの:生得説-経験説 構成主義-機能主義
・相いれるもの:その他?(生得説と経験説に関しては他のものと相容れない)

評論問題(p.25)

1.
生物学的枠組み:性的指向を脳内の化学物質の分泌の差や脳の構造の差などに帰属させる.
性的指向と脳の構造差について:Biological Perspectives on Sexual Orientation - Oxford Scholarship
行動的枠組み:性的な刺激を提示した際の人間の行動の違いを調査することで,特定の指向と行動の結びつきが観察されるかを調べるなど?
認知的枠組み:性的指向と意思決定プロセスの関連を調べるなど?
例:性的指向と空間把握能力の関連について調べた研究
精神分析的枠組み:幼少期の家庭内教育やトラウマ経験が性的指向を形作るプロセスを調べる?
主観主義的枠組み:個人の対人関係が性的指向に与える影響を調べる?

2.
従来臨床心理学で問題となってきたような明らかな精神的疾患を扱うための心理学ではなく,人々が日常においてより幸福度の高い生活を送られるような要因を探る心理学(ポジティブ心理学)などが考えられる.

評論問題(p.39)

1. もとから攻撃的傾向のある少年が暴力的な番組を好んで見ているだけである,という可能性がある.因果関係を調べるためには,同程度の攻撃的傾向を示している複数の少年をいくつかの群に分け,それらの群で暴力的な番組を視聴してもらう時間を変えてもらうことによりテレビ視聴が成長後の攻撃的傾向に与える差を調べる必要がある.

2. 摂食障害と身体的外見へのこだわりとの間にはある程度の正の相関が存在する.つまり,身体的外見にこだわっている人ほど摂食障害を抱えている可能性が高い.これは因果関係である可能性もある(「外見にこだわりすぎるために摂食障害になる」「摂食障害になると外見にこだわり始める」)し,擬似相関である可能性もある(例:幼少期における親の教育方針によって,食事を摂らなくなると同時に外見へのこだわりが生まれる).仮に「身体的外見へのこだわりが摂食障害を引き起こす」と仮説を立て検証するならば,身体的外見へのこだわりに関する質問紙調査を摂食障害の有無に関わらず定期的に実施し,摂食障害を抱える前に身体的外見へのこだわりの上昇が発生しているかを検証する必要がある.
(少し自信がない解答.時間的な前後関係を特定すれば仮説を検証したものとしてok?)

第2章

評論問題(p.49)

1. (思いつかないので調べた)
人間の言語能力.あくまで学説の一つ,という段階であり未だ論争は存在するようだが,ヒトが言語能力を前適応により獲得したとする学派が存在する.例えば,喉の発声器官はもともと鳴き声や吠え声を出すための器官であったが,この器官の存在によって言語の発話が可能となった,という学説がある.
参考: #544. ヒトの発音器官の進化と前適応理論

2.
神経系は人間の思考などの生物学的・物理学的基盤であり,その機能や仕組みを知ることでボトムアップな心理学理論の構築が可能となるため重要である.個人的にはこの主張に同意.トップダウンの理論構築(観察された結果から人間の情報処理の抽象的モデルを作り上げるようなもの)ももちろん重要であるが,神経科学的な基盤に基づいた心理学の歴史は浅く今後の大いなる発展が見込まれる.また,人工知能開発に対する知見の提供など心理学を超えた貢献が期待される(と思う).

評論問題(p.56)

1.
グリア細胞ニューロンの生存環境を整えるなどの裏方的な役割だけでなく,神経信号の伝達において非常に重要な役割を果たしている可能性がある.例えば,グリア細胞の一種であるアストロサイトはシナプスの伝達効率を制御している可能性が示唆されている.
参考: グリア細胞

2.
脳の一部分の神経信号伝達を止めることにより,ある部位に対応する機能を停止させることができる?(自信なし)

評論問題(p.58)

1.
利点

  • 抑制性と興奮性の神経伝達物質を使い分けることにより,神経発火の促進および抑制が可能となる.
  • 伝達にかかる時間の違いを利用することで,素早く発火する神経回路と遅く発火する神経回路の共存が可能となる.
  • 神経伝達物質を使い分けることにより,特定のニューロンだけに神経信号を伝達することが可能となる.

など
参考:What is the selective advantage for having multiple neurotransmitters for a neuronal system? - Quora
欠点

  • それぞれの伝達物質を生み出すための生成器官の存在が必要?
  • 結合可能なシナプスのペアが限定されるため,可塑性が制限される?

(欠点の方は自信なし)

2.
神経伝達物質を飲んでもそれがそのまま脳に届くというわけではないのでは?

評論問題(p.74)

1.
自然界において,捕食者が左右どちらかの視界に多く現れたり,餌が左右どちらかの側に多く存在することはない.そのため,脳の構造が左右対称であることによって,自然界で遭遇する様々な事象に対してより効率的に反応できるようになる.また,両手で何かを行う場合などの並行処理も対称性によって行いやすくなる.また,脳の対称性が言語能力を強化したり,創造性を強化している可能性がある.
参考:books.google.co.jp
Chapter 4: Cerebral Hemispheres

2.
脳梁が切られている以上右脳と左脳の間で情報のやり取りはなく,そのため意識の流れも右脳と左脳で別々に存在する.つまり,離断脳の患者は右脳と左脳に別々の心を持っている.
...というのが定説であったが,近年この定説に疑義を呈する研究結果が発表されている.Pinto et al. (2017)*1 は,離断脳の患者においても右目に提示された刺激(=左脳に伝わる)を左手で回答できることを報告した.このことに基づき,Pinto et al.は脳が分離された状態においても二つの脳を統一する唯一の意識は存在すると主張している.一方,この結果は意識が一つしか存在しないことを必ずしも意味せず,二つの脳が微妙な筋肉の動きなどの手段によって脳梁を利用しない情報伝達手段を獲得しているだけである,という主張も存在する*2

評論問題(p.75)

1.
特定のホルモンのみに反応するレセプターを利用することで,身体の特定組織に選択的に作用する.
参考:Overview of Hormone Receptors and Signalling

2.
甲状腺から出る甲状腺ホルモンは身体全体の新陳代謝を増大させ,体温を上げる役割を果たす.また,(これはホルモンは特に働きに関与していないと思うのだが)汗腺から汗を出すことによって体温を下げることができる.
参考:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC209345/#B2

評論問題(p.85)

1.
環境の影響も強く受けるため.例えば,アルコール依存症の割合は遺伝子だけでなくアルコール消費に対する文化の許容度やそもそものアルコールの手に入りやすさによって変化する.
参考:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3192029/

2.
高度な数学的思考力などは遺伝的に計画されていない思考の例であろう.人間は教育によってこの行動を次世代に伝達することができる.

第3章

評論問題(p.96)

1.
自分の子供だから当然関心を持つのでは?そして多くの場合それは子供の発達にプラスに働く?

2.
愛着の発達に重要な時期に適切な愛情を受けなかった子供は愛情を持つ能力に問題を持ち,児童虐待を受けた子供が将来親になった際に児童虐待を起こす,などといった問題を引き起こす.
参考:Critical Periods and Critical Moments for Attachment | Psychology Today

評論問題(p.101)

1.
乳児の頃の記憶を成人になって思い出すことができる,というのは乳児の時からエピソード記憶を保持していたことを意味するが,これは定説と相入れない.この章で紹介されていた記憶はエピソード記憶ではない.そのため,乳児の頃の記憶を思い出せると主張している成人は単に偽の記憶を持っているだけではないだろうか.
参考:Why Don't We Remember Being Babies?

2.

*1:Pinto, Y., Neville, D. A., Otten, M., Corballis, P. M., Lamme, V. A., De Haan, E. H., ... & Fabri, M. (2017). Split brain: divided perception but undivided consciousness. Brain, 140(5), 1231-1237. https://academic.oup.com/brain/article/140/5/1231/2951052

*2:Volz, L. J., Hillyard, S. A., Miller, M. B., & Gazzaniga, M. S. (2018). Unifying control over the body: consciousness and cross-cueing in split-brain patients. Brain. https://academic.oup.com/brain/advance-article-abstract/doi/10.1093/brain/awx359/4812597?redirectedFrom=fulltext