『描写の芸術 - 十七世紀のオランダ絵画』読んだ

 

描写の芸術―一七世紀のオランダ絵画

描写の芸術―一七世紀のオランダ絵画

 

  フェルメールに代表されるオランダ風景・静物画を「描写」の芸術と定義し、イタリアルネサンスの物語芸術と対比させてその思想的背景・芸術的価値を探った書。西洋美術史において一つのターニングポイントとなった本らしい。つまりは美術史のピケティか(なんでもピケティに喩えればよいというものではない)。

 

 線遠近法をもとに構成されたイタリア絵画は物語性に溢れており、それに対して現実の書き写しにしか見えないオランダ絵画は「含蓄のない見掛け倒しの絵だ」と非難されていた、というのがこの本の背景事情としてまずある。筆者はここにメスを入れ、現実の正確な描写そのこと自体が当時オランダで重きをおかれていたことであり、それ自体が一つの価値として成立していると主張する。これは美術解釈の伝統的手法であった図像学(イコノロジー)の拒絶だ。

 

 主張は絵画の解釈の問題にとどまらず、描写が重視された当時の社会的背景にまで話が及ぶ。この部分に関しては論理が荒削りな部分もないことはない。例えば観察の重視を示す事例として筆者はベーコンの思想を挙げるが、いくら同時代人とはいえベーコンはイギリス人である(これは訳者があとがきで補足している通りである)。ケプラーのレンズについての話を観察の優位に結びつけるのは面白かった。

 

 ところで私は美術史関連の本を最近になって読み始めたのだが、これが予想以上に面白い。対象となっている西洋絵画にはぶっちゃけ1ミリの関心もないのだが、最近街中で美術展の宣伝ポスターが貼ってあるとチラチラ目が行くようになってしまった。単に「ほえーこいつの絵うめえなあ」といった消費の仕方ではなくて、小難しいことを考えながら積極的に絵を読み解こうとする方が私の性分に合っているようだ。