『Cybersecurity and Cyberwar: What Everyone Needs to Know』読んだ

 

Cybersecurity and Cyberwar: What Everyone Needs to Know

Cybersecurity and Cyberwar: What Everyone Needs to Know

 

  アメリカの国際政治学者であり戦争関連の著作に定評があるP.W.Singer氏、並びにAllan Friedman氏(こっちの人のことはあまり存じ上げない)の共著。タイトルの通り、サイバー戦争について論じている。

 P.W.Singer氏は現代の戦争をリアルに描き出し、かつ読みやすく面白い本を書くことで一部界隈では有名人なのだが、この本もその期待を裏切らない。現代・未来においてサイバー空間における戦闘はどのようなものになるのか。そこでは、しばしばSF作品で夢想されるような「少数の天才ハッカーが覇権を握る世界」が訪れるのか。サイバーテロを防ぐために企業・政府はどうすべきなのか。そして、我々が自分の身を守るためにするべきことは何か。これらの疑問に懇切丁寧に答えてくれるのがこの本だ(比喩ではなく、本当にQ&A形式で書かれている)。予備知識は必要ない。

 今後、IoT(Internet of Things)が加速する中で、サイバーテロによるリスクはますます増加すると考えられている。ハッキング可能になるものはPCやスマホだけではない。少し前にはウォシュレットがハッキング可能であり遠隔操作で水の強さを変更可能であるという深刻な脆弱性()が報じられた。

Lixil(INAX)Bluetoothトイレは、ハッキング可能 « アメリカより

 

ウォシュレットならまだかわいいものだが、今一番アツい(?)ハッキング対象は車だ。

wired.jp


Digital Carjackers Show Off New Attacks - YouTube

上の動画は有線だが、無線での攻撃も可能(らしい)。それを説明したのが以下。

www.youtube.com

http://static.usenix.org/events/sec11/tech/full_papers/Checkoway.pdf

 この論文によれば、車に搭載されたテレマティクスユニット(ネット接続されたカーナビのようなもの)に文字通り「電話をかける」ことで車をハッキングすることができるらしい。現代のテレマティクスユニットは、管理センターとのやりとりに携帯電話の通話用の無線規格を使用している部分があり、そこでは音声の周波数をもとにデータを送受信している(企業のお客様センターに電話するとよくある「○○の方は1のボタンを、それ以外の方は2のボタンを押してください」と似たような仕組みだ)。通話データを受信するプロトコル自体は1024bitまでのデータを受け取れるが、それを車に対する命令として解釈するプロトコルは最大1000bitまでのデータしか想定していないため、適切な音声データを送ることでバッファオーバーフローを起こすことができる。通信の認証システムを突破するために平均128回電話をかけなければいけないようだが、それでも車に「電話をかけ」、用意したMP3データを聴かせるだけで地球上どこからでも車をハッキングできるというのは、かなりビビる話だ。

 

 話がだいぶ逸れたが、サイバーセキュリティが今後ますます重要な領域になってくるということはご理解いただけたと思う。未来の戦争だけでなく、未来の社会を考えていく上でもサイバーセキュリティについて知っておくことは肝要だ。オススメの本。

 

P.W.Singerとミリオタと私

 以下余談。ヨルムンガンドというアニメをご存知ですか。

www.jormungand.tv

 ドンパチアニメの名作「BLACK LAGOON」とよく対比される作品だが、戦闘に関するリアリティーの水準はヨルムンガンドの方が上。オチが残念なので私の中では佳作止まりだが、ミリオタの沼へと私を誘いかけた作品である。

 この作品のプロットは、「私兵を持つ武器商人ココ・ヘクマティアルと、新たに私兵として入社(?)した少年兵のヨナ、それと愉快な私兵たちとが色々する」といった感じなのだが、民間のアクターが戦争においてどのように動いているのかという部分ではP.W.Singerの

 

戦争請負会社

戦争請負会社

 

 の影響を多分に受けていそうだし、主人公が少年兵ということはもちろんP.W.Singerの

 

子ども兵の戦争

子ども兵の戦争

 

 は外せないし、物語の要所で大きな役割を演じるUAV(無人航空機)についてならP.W.S(ryの

 

ロボット兵士の戦争

ロボット兵士の戦争

 

 が必読書だし。って、元ネタほとんどP.W.Singerやないか~い!

 というわけで、ミリタリークラスタとP.W.Singerは密接に結びついている。というか、P.W.Singer氏はミリオタだ。まず間違いない。ミリオタになりたいならまずP.W.Singerを読もう。なりたくなくても読もう。単純に読み物として面白いから。

 そして、P.W.Singer氏はミリオタを拗らせたのか(失礼)ついに創作の分野に手を出す。なんと、最新作は未来の戦争、すなわち第三次世界大戦についての小説だ。

 

Ghost Fleet: A Novel of the Next World War

Ghost Fleet: A Novel of the Next World War

 

  小説家(であってるよね)August Coleとの共著。控えめに言ってメチャクチャ面白そうなので今度読む。